猿山あってのサル──利己と利他をつなぐマーケティングの力

たぶんですけどね

はじめに──利己と利他をつなぐマーケティング

弱者を救うと、強者も生き延びる。
それは道徳ではなく、歴史が証明してきた合理性です。

マーケティングは「企業のため」か「顧客のため」か。よくそんな二項対立で語られますが、実際にはもっとシンプルです。企業が自分の利益を追求するからこそ、顧客の役に立たざるを得ない。利己と利他をつなぐ回路をつくること、それがマーケティングの本質です。

原理原則──利己心は利他に転じる

アダム・スミスが「見えざる手」で指摘したように、人は自分の利益を追求する過程で社会を豊かにします。パン屋は「人々を養いたいから」パンを焼くのではなく、「自分が儲けたいから」パンを焼く。でも結果的に社会にパンが供給され、人が助かる。この循環が資本主義を支えてきました。

強者が弱者を救うのは必ずしも善意からではありません。社会や市場の持続性がなければ、自分の地位も利益も維持できない。だからこそ「猿山あってのサル」(※)と言われる通り、山を守る行為が結果として利他に見えるのです。

歴史的な法則──資本主義の自己修正

共産主義や社会主義は理想を掲げつつも持続できませんでした。資本主義だけが生き延びてきたのは、修正を繰り返してきたからです。ニューディール政策や福祉国家の整備、近年のサステナビリティ経営まで、その修正の方向性は常に「弱者を取り込む」ことでした。

資本主義は「革命」で変わるのではなく「調整」で生き延びるシステム。弱者を救う仕組みを内包することで、長寿を保ってきたのです。

実例──弱者を救うマーケティング

歴史を振り返ると、弱者を救うことで結果的に強者がより繁栄した事例は数多くあります。ここでは「救済型」と「豊かさ導入型」に分けて整理してみましょう。

救済型──困難を直接解消するマーケティング

救済型は、すでに直面している困難(貧困・高薬価・衛生問題など)を「直接解決する」ことで弱者を救った事例です。

事例いつどこでだれがだれにどうしたなぜ
フォードの高賃金政策1914年アメリカ・デトロイトヘンリー・フォード自社工場の労働者1日5ドルの高賃金を支給離職率改善と生産効率向上、結果的に消費市場拡大
マイクロファイナンス(グラミン銀行)1976年バングラデシュ農村ムハマド・ユヌスとグラミン銀行貧しい女性たち小口融資をグループ単位で提供女性の自立支援と起業促進
ジェネリック医薬品普及1990年代以降世界各国後発医薬品メーカー・ドラッグストア高薬価で困る患者層特許切れ薬を安価に提供医療費削減と新市場開拓
ユニリーバ石けんキャンペーン2000年代インド農村・スラムユニリーバ子どもを持つ母親たち手洗い教育キャンペーンを実施感染症防止と石けん需要拡大

豊かさ導入型──参加と成長を促すマーケティング

豊かさ導入型は、弱者を社会や市場に「参加させる仕組み」を作り、その人々が成長できる環境を整えた事例です。

事例いつどこでだれがだれにどうしたなぜ
IBMリスキリング2010年代アメリカ・グローバルIBMデジタル時代に追いつけない従業員AIによる学習プラットフォーム提供従業員スキル向上と企業競争力維持
M-PESA2007年〜ケニアサファリコム(Vodafone)銀行口座を持たない人々携帯送金・決済サービス提供送金利便性向上と経済活動拡大
マイクロソーラー2000年代バングラ・アフリカNGO・ソーラー企業・金融機関電力網に接続できない家庭小型ソーラーを分割払いで提供電力アクセス改善と生活向上
コカ・コーラ ママチャンネル2000年代アフリカ諸国コカ・コーラ社働く場が少ない女性たち女性を販売代理に育成販路拡大と女性収入増加
格安スマホ2010年代日本全国MVNO(格安SIM事業者)低所得者・学生安価な通信プラン提供情報格差縮小と市場拡大

想定される反論とその応答

反論1:結局は企業の搾取では?
→ 搾取だけでは市場が縮小し、企業も生き残れません。だからこそ「救う」方向に行かざるを得ないのです。

反論2:すべての強者が救済しているわけではない
→ その通りです。だからこそ民主主義や制度が補完し、循環を壊す強者には規制が入ります。そして実際には、持続可能性に気づいた者から変わっていくのが歴史の流れでもあります。

反論3:日本ではまだ十分でないのでは?
→ 課題はありますが、ジェネリック医薬品や格安通信など、弱者救済を利益につなげる萌芽は確かにあります。

まとめ──弱者を強者に変えるマーケティング

マーケティングは「強者が弱者を救う」仕組みを持つと同時に、弱者(小さな企業)が強者へと成長する手段でもあります。

かつてマクドナルドも、スターバックスも、ユニクロも無名の挑戦者でした。マーケティングの考え方と技術があったからこそ、小さな存在が世界を変える企業に育ったのです。

つまりマーケティングとは、利己と利他をつなぎ、社会を持続可能に進化させる装置そのもの。そして、その進化は「気づいた者から変わっていく」歴史を繰り返してきました。


(※)言われる通りというか、私が勝手に言いました(笑)

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