――カレーライス主義で考える、日本的都市の未来
はじめに:なぜ都市戦略が必要か?
いま、日本の多くの都市は岐路に立たされているようです。人口減少、少子高齢化、産業の空洞化。地方から都市へと人が集まる構造、その中で地方や都市自体の「持続可能性」を問われる時代ということです。
そんな中で気になるのが、都市ごとの戦略です。戦略というと「勝ち組になるか、負け組になるか」という二者択一の思考になりがちですが、もう少し違ったアイデアを探れるはずだと思います。例えば、「それぞれが自分たちに合った形で、役割分担しながらどう成長していくか?」を描いていくようなビジョンを持つことです。
その際には、「競争」と「協調」を対立させず、どちらも包み込む考え方が必要です。例えればそれは、日本のカレーライスのように。刺激の効いたスパイスを使うも、それは、しっくりと慣れ親しんだ旨味や醤油で味の奥行を保つといった料理の仕方。実はこれは秘儀ともいえる日本型ソリューションだと思います。
大阪都構想は、スパイスの効きすぎた挑戦だった
かつての大阪都構想は、まさにこの国で初めて本格的に現場から「都市構造そのものを作り替える」提案でした。大阪府と大阪市を再編し、東京のような「都と特別区」構造にすることで、成長の司令塔を一つにしようという試みでした。
私はこの挑戦そのものには大きな価値があったと思っています。成長をめざして都市の形を見直す、という姿勢は本来もっと議論されてよいテーマだからです。
住民投票では、あと一歩というところで否決されてしまいましたが、それは制度設計の問題というより、「味の設計」が難しかったのだと思います。もう少し地元の文化や感情への丁寧な配慮が加わっていれば、結果は違ったかもしれません。
例えれば、クミンやターメリックやカルダモンとかいう本格スパイスがほんの少し効きすぎていただけで、もうあと一匙、馴染みのある醤油か出汁を加えていたらおいしいカレーライスに仕上がったかもしれません。住民投票の結果はそれほどの僅差でした。
“混ぜる”ことの思想──カレーライス主義とは?
そんな「カレーライス主義」とも言える合意形成のやり方は、実は日本にはデフォルトで備わっています。強いスパイス(改革・成長戦略)も、ごはんのような穏やかな土台(地域文化や暮らし)も、ルウのようにとろみを持って全体をつなぐ制度も、すべて一皿に盛って「うまくやる」こと。これを手段でなく、むしろ目的にしてしまう、結果良ければすべてよし。カレーライスは旨くてなんぼ、という考え方です。
「多様性を混ぜたらぐちゃぐちゃになる」とか「本場の味じゃなきゃ絶対ダメ」と言われることがある一方で、実際、日本には「混ぜて、でもちゃんとまとめる」慣習があります。それは、素材の主張を全部なくすのではなく、ちょうどよく効かせるバランス感覚にあります。
大事なのは、極論に引っ張られすぎないこと。暴論は混ぜず、極論は少しだけ効かせる。仕上げには「一回味見してみる」という姿勢。最後には「旨ければ良し」とする態度です。つまり、時間をかけて小さく試して、確かめて、そこから広げる。おいしければOKとする。これは制度設計でもしばしば生じる、非常に日本的なアプローチだと思います。
競争と協調の“あいだ”に立つという選択肢
都市が自分たちの未来を描くとき、「連携」か「競争」かという二項対立に陥る必要はありません。
たとえば福岡市は、スタートアップ支援や都市開発で競争力を発揮していますが、その背後には福岡県との協調や、九州内の連携も存在しています。首都圏もまた、東京・横浜・さいたまが、経済では競いつつも、インフラや交通政策では連携せざるをえない関係にあります。
日本の都市は、真っ向からぶつかるのではなく、ゆるやかに棲み分け、でもそれぞれの“らしさ”で輝くというモデルを描くことができます。これが、カレーライス主義的な都市戦略の骨格です。
味見する都市、出汁を効かせる地域──試作と実装
いきなり全国規模で制度を変えるのではなく、まずは小さな都市圏で「味見」してみるのが良いのだと思います。たとえば堺市・尼崎市・芦屋市といった近接する都市で、地域連携と都市戦略の“試作”を行う。すでに空気的に混ざり合っている地域に、ゆるやかに制度の輪郭を与えていく。
それは、特定の地域を特区として活かすというよりも、「すでに実質的に機能しているものを見える化・意識化する」作業です。これはテストマーケティングに近い感覚で、今の日本に最も合った方法だと思います。
おわりに:混ざって、うまくて、しかも未来志向な一皿を。
日本の都市は、まだまだ成長する余地はあると思います。新しい改革を恐れるのではなく、ひたすらに「どう混ぜたらおいしくなるか」を考えること。それがカレーライス主義の本質です。
競争する都市も、連携する都市も、それぞれの味を持っています。だからこそ、全部混ざったときに生まれる“日本という一皿”が、世界の中でもきっとユニークな存在になるはずです。
それは、インバウンドで訪れる多くの外国人に人気だという「ココ壱」の正にカレーライスのようにです。
都市戦略とは、本来もっと自由で、もっと創造的で、そしてもっと生活に近いものです。少しずつ味見しながら、じっくり煮込んでいけたらいいなと思います。
参考事例:カレーライスは日本の国民食|現状のカレーライス主義政策10選
🍛1|児童手当(2024年拡充版)
- 支給対象を高校生まで拡大しつつ、所得制限も継続
- 全世帯に一律支給ではないけど、“財源の現実”とも折り合ってる
🍛2|高等教育無償化(住民税非課税世帯対象)
- 誰もが大学に行ける社会を目指しつつ、段階的・限定的に導入
- 一気に「無償化!」とはいかず、財政負担も考慮
🍛3|選択的夫婦別姓の通称使用対応
- 制度としては認められていないけど、職場・学校などで旧姓使用が広がる
- 実質的には“選べる”に近づきつつある
🍛4|消費税の軽減税率(8%)
- 食品は8%、それ以外は10%
- 「一律に増税」では反発が強い…という空気を読んで“混ぜた”
🍛5|ふるさと納税
- 納税者の自由な選択と、地方の自主財源確保を両立
- 返礼品ビジネスも活況、でも制度の趣旨とはズレ気味?
🍛6|同一労働同一賃金
- 正規と非正規の待遇格差を縮小するが、完全平等ではない
- “努力目標”という温度感
🍛7|エネルギー基本計画(原発+再エネ+火力)
- 再エネ推進と言いつつ、原発も火力も“当面は必要”とする多層構造
- 安定供給と脱炭素の両立を模索
🍛8|外国人労働者受け入れ制度(技能実習→特定技能)
- 労働力不足を補う一方で、「移民ではない」と言い続ける制度設計
- 社会統合へのステップが曖昧
🍛9|マイナンバーカードと健康保険証の統合
- 行政の効率化を進める一方、「紙の保険証も併用可能」に(猶予期間延長)
- 一気に移行せず、徐々に理解の空気の醸成を狙う
🍛10|LGBT理解増進法(2023年施行)
- 差別禁止ではなく、「理解を深める努力義務」止まり
- 保守派とリベラルの間で折り合った“薄味”に



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