2022年、ロシアがウクライナに軍事侵攻しました。
国際社会は制裁や外交で止めようとしましたが、戦争は始まってしまいました。
「なぜ止められなかったのか?」──その問いに向き合うことは、単なる過去の振り返りではなく、これからの日本や東アジアの安全保障を考えるうえで欠かせない課題です。
この記事では、ロシア侵攻の舞台裏を整理し、どの時点で止められた可能性があったのかを振り返り、そこから日本に必要な「安全保障七徳」を導き出します。
ロシア侵攻の舞台裏──分断と依存に付け込まれた
国内の分断
ウクライナには歴史的に「欧州志向」と「ロシア志向」の地域差がありました。西部はウクライナ語を話す人が多く、欧州統合を支持。東部はロシア語話者が多く、ロシアとの結びつきを重視する声もありました。
この分断は政治危機のたびに深まり、2014年の政変で親ロシア政権が倒れたとき、東部住民の一部は「自分たちの声が無視された」と感じました。ロシアはそこに「弾圧されている人々を守る」という物語を差し込み、侵攻の口実にしました。
外部への依存
同時に、ヨーロッパがロシア産天然ガスに強く依存していたことも大きな要因です。ドイツは「ノルドストリーム2」でさらに輸入を増やそうとしており、「ガスを止められたら冬を越せない」という弱点を抱えていました。
依存関係は平和の保証になるどころか、逆に「人質」として利用され、抑止力を弱めてしまったのです。
教訓
ロシアの侵攻は、ウクライナの「分断」とヨーロッパの「依存」という二つの弱点を突いたものでした。国家の内部と外部の両方にある脆さは、戦争の口実として利用されるのです。
止められたかもしれない分水嶺
「もしあのとき違う動きをしていれば」というターニングポイントは、いくつもありました。
火種を消していれば
2015年以降、ドンバスでの停戦合意(ミンスク合意)を国際社会が本気で実行し、ロシアからの武器供給を厳しく監視していたら、侵攻の口実は弱まったかもしれません。
コストを事前に示していれば
「軍隊を国境に集めただけで制裁発動」といったルールを前もって決めていれば、プーチン大統領は経済的なリスクをより重く受け止めたかもしれません。たとえばSWIFTからの排除など金融制裁を侵攻前に宣言できていれば、効果はさらに大きかったでしょう。
嘘を即座に潰していれば
侵攻直前、「ウクライナ軍が住民を虐殺している」という偽情報が広まりました。実際には OSCE(欧州安全保障協力機構)の監視団が「ジェノサイドの証拠はない」と報告していましたが、その情報発信は国際世論に十分に届きませんでした。
防御を固めていれば
もっと早くからウクライナに対戦車ミサイルや防空システムを支援していれば、「短期決戦は無理だ」とロシアに計算させることは可能だったかもしれません。
苦い妥協を用意していれば
たとえば「10年間はNATO加盟しない」という妥協案を事前に提示していれば、ロシアは「戦わずに勝った」と国内に演出する余地を得た可能性があります。
教訓
どれも確実に戦争を止められたわけではありませんが、複数の抑止策を積み重ねることが重要でした。万能の一手は存在せず、対応策の“組み合わせ”が抑止力を増します。
日本の安全保障七徳
ロシア侵攻の教訓を日本に当てはめると、次の七つの力が浮かび上がります。軍事力だけでは秩序は守れません。総合力が不可欠です。
情報発信力──嘘やフェイクを即座に潰す力。
OSCE監視団のように、証拠に基づくリアルな情報をSNSや映像で世界に配信する仕組みが不可欠です。
防御・回復力──攻めても割に合わない国になる力。
防衛インフラに加え、停電や物流混乱にも耐える社会レジリエンスを整備する必要があります。
経済依存度の低減──権威主義国に握られない力。
日本のレアアース依存は依然高く、2010年時点は90%が中国産、現在でも約60~70%にのぼります。都市鉱山の再生やオーストラリア等からの代替調達強化、さらには京都大学のSEEEプロセスのような96%再資源化技術も進展中です。
エネルギー面では、日本のLNG依存に占めるロシア比率は約9%ですが、サハリン2などの契約が2030年までに順次切れており、米国やカナダ、オーストラリアなどとの多元的な供給契約へ舵を切っています。また、非常用備蓄の拡充としてLNGを年間0.84百万トン相当分搭載する計画も進行中です。
腹の決まり──抑止ラインをあいまいにしない力。
台湾有事に際し、日米がどこまで関与するかを政府声明で明示できれば、抑止になる可能性があります。
国内分断の合意形成──外部介入を封じる力。
社会制度や価値観の違いを受け入れるための議論や合意形成の仕組みが、安全保障の“本丸”です。
外交の柔らかさ──妥協の窓を残す力。
ASEANや国連を通じて“対話の枠”を維持し続けることが、非常時の出口を準備する力になります。
耳の良さ──小さな火種を拾う力。
尖閣問題や地域摩擦など、小さな火種に早期対応することで、大きな火災を防ぐ予防機能を持てます。
教訓
これら七つの力を「安全保障の七徳」と名づけるなら、日本は今、それらを磨き整える段階にあります。軍事力と並んで、情報・経済・社会制度のバランスが取れてこそ、真の抑止力になります。
おわりに
ロシア侵攻は「分断」と「依存」が重なると戦争が起きることを浮き彫りにしました。
戦争を防ぐには武力だけでなく、国内の合意形成、経済構造の改善、迅速な情報発信といった多面的な「七徳」が必要です。
日本が未来の秩序を守るために必要なのは、軍事力に偏らず、「七徳」という総合力です。
この力こそ、東アジアの平和と安定を維持する鍵となるでしょう。



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